海月の音

聴こえなくても良いんだけど。

こども

ふと今はもう隣にいないあの人のことを思い出した。

何かきっかけがあったわけでもなく、ただ唐突に思い出したのだ。

 

彼女は私の親友だった。こうして言葉にすると薄っぺらく感じられるけれど、本当に彼女のことが大好きで、信頼していた。

 

彼女は、真っ直ぐで、凛々しくて、賢くて、温かくて、強くて、笑顔が素敵な人だった。私には無いものを沢山持っていた。でも不思議と妬んだことは一度もなくて、ただただ、尊敬していた。それを手に入れるために彼女が必死に努力していた姿を誰より近くで見ていたからだと思う。

 

二人の距離が広がっていった理由は今でもよく分からない。勿論想像はついているけれど、彼女はそんな人じゃないって信じているから。それに当然、私が気づかぬ間に彼女を傷つけていた可能性だって十分にある。

 

私と彼女が今はもう過去のような仲ではないことを知っているのは、ごくわずか。私の両親、彼女の両親、私の彼氏、ぐらいだと思う。

「こんな事で壊れる友情なら、最初からいらない」―頭では解っている。私は、彼女が期待していたような人間ではなかった。どんな期待をしていたのかは解らないけれど。

 

彼女にしか言っていない事も沢山ある。多分、今でも秘密にしてくれていると思う。

その理由は、今でも見えない絆で結ばれている、だなんて話ではない気がしている。かといって、彼女が私に対して罪悪感を抱いているからでもないのだ。

あの日々が忘れられない、過去の私と貴方を裏切りたくない、多分たったそれだけのこと。これは私の推測でしかないし、願望に近いものでもあるだろう。でも、本気でそう信じている。

 

「またどこかで会いたいと思っているのがうちだけじゃないといいなあって。やっぱあの子のかわりなんていないからさ。今更元通りの仲になれるだなんて思っちゃいないけれど、それでもやっぱり諦めきれないの。思い出がうちを縛り付けてる、っていうか。なんだろう、そんくらいうちの中では宝物なんだろうね、あの子との日々が。今でも大好きだなんて言えるのは、会ってない間に色々と美化しちゃってるだけなのかもしんないけど。うん、まあ、これで良かったと思うしかないよね。ああ、なんか色々考えてたら、やっぱ二度と会わない方がいい気がしてきた。今うちの隣にいてくれる人を大事にしたいって思うんだよ。去っていった人よりも、大切にすべき人は沢山いるような気がしてさ。ああ、いや、でも、うん。唐突に、唐突に思い出すんだ。その度に、ちょっと泣きそうになるんだよ。あ、ごめん、うちばっかり喋っちゃったね。」

 

 

インターネットの濁流に放り投げて誤魔化そうだなんて、相変わらず私は馬鹿だね。